バーチャルオンリー株主総会とは?|会社法と特例の要件を解説

※本記事は、掲載時点で施行されている会社法その他の関連法令に基づき作成しています。将来的な法改正等により内容が変更される可能性があります。
はじめに
コロナ禍以降、株主総会のオンライン活用は一気に進みました。
現行の会社法では、物理的な会場(以下、リアル会場)を設けた上でオンラインを併用するハイブリッド型は広く運用可能とされています(会社法298条1項)。
一方の会場を持たないバーチャルオンリー(場所の定めのない株主総会)は、産業競争力強化法に基づく特例により、要件を満たす上場会社に限って可能とされております(産業競争力強化法66条)。
では、そのバーチャルオンリー株主総会とは一体なになのか。要件や詳細を見ていきましょう。
会社法の基本枠組み
株主総会を招集する場合、取締役は日時と場所を定める必要があります(会社法298条1項1号)。
この「場所」の規定が、原則としてリアル会場を前提にしている理由です。
もっとも、会社法は「株主の出席形態」について限定を設けていないため、リアル会場を設けた上でオンライン参加を併用する「ハイブリッド型株主総会」は法令上認められています。
ハイブリッド型株主総会を開催する場合は、出席者が一堂に会しているのと同等であり、意思表明が互いにできる状態であることが必要とされています。
そのため、株主総会議事録には情報伝達の即時性と双方向性を確認した事実を記載することが望ましいとされています。
〈株主総会議事録記載例〉
定時株主総会議事録
(略)
出席した株主の有する議決権数 10,000株
(うち、web会議システムを利用した出席数 5名)
(略)
株主総会に出席した役員
代表取締役 甲野太郎
取締役 甲野太郎
取締役 乙野太郎
なお、取締役である乙野太郎は、大阪支社会議室よりWeb会議システムを利用して決議に出席した。
(略)
議長は、本定時株主総会で利用するweb会議システムが、出席者の音声が即時に他の出席者に伝達し、伝達の即時性および双方向性を確認した上で開会を宣し、議事に入った。
産業競争力強化法の特例
上場会社は、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受け、定款に定めることでバーチャルオンリー総会を開催できることとなりました(産業競争力強化法66条)。
省令要件
確認は省令要件のすべてを満たす必要があるとされており、以下のいずれにも該当する必要があります。
- 通信の方法に関する事務の責任者の設置 ※1
- 通信の方法に係る障害に関する対策についての方針の策定 ※2
- 通信の方法としてインターネットを使用することに支障のある株主の利益の確保に配慮することについての方針の策定 ※3
- 株主名簿に記載・記録されている株主の数が100人以上であること
※1 責任者は必ずしも取締役である必要はありません。
※2 通信障害が生じた場合に関する具体的な対処マニュアルを作成するなど。
※3 ネットを使用することに支障のある株主について書面による事前の議決権行使を推奨する旨を通知するなど。
商業登記実務の取り扱い
バーチャルオンリー株主総会を認める定款変更決議をしても、その旨は登記事項とされていません。
株主総会の議事録に「バーチャルオンリー株主総会を開催した旨」や「通信方法・障害対策・株主への配慮方針」を記載することが必要です。
登記申請の添付書類として、場所の定めのない株主総会を開催できる旨の定めのある定款を添付しなければなりません。
この制度は上場会社に限って利用可能ですが、登記官は申請会社が非公開会社ではないことを確認すれば足りるとされています。
まとめ
- ハイブリッド型は会社法の解釈・運用で広く可能。
- バーチャルオンリーは産業競争力強化法の特例により、上場会社が確認を受け定款に定めることで実施可能。
- 定款に定めても登記は不要。
その他、招集通知・議事録には通信方法や障害対策方針等を記載するなど、詳細が定められていますので、必要に応じで専門家にご相談ください。
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参考文献
- 経済産業省「場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー株主総会)に関する制度」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/corporategovernance/virtual-only-shareholders-meeting.html- 法務省「バーチャルオンリー型の株主総会を開催することができるようになりました」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00264.html- 立花宏「ケース別 商業登記添付書面-必要となる書類と実務のポイント-」新日本法規出版