【令和7年10月1日施行】公正証書遺言のデジタル化が始まります。

※本記事は、掲載時点で施行されている民法、公証人法その他の関連法令に基づき作成しています。将来的な法改正等により内容が変更される可能性があります。
はじめに
法務省は、公正証書の作成に係る一連の手続について、ウェブ会議や電子署名等を活用した全面的なデジタル化を導入する改正を進めてきました。
これにより、従来は公証役場への出頭が必要だった遺言手続を、オンラインでも完結できるようになります(令和7年10月1日施行)。
それでは要件と手続きの詳細を確認していきましょう。
公正証書遺言の方式(現行法)
公正証書遺言とは、公証人が関与して作成する遺言で、遺言方式の中で最も形式面の確実性が高く、効力が争われにくい遺言方式です。
公正証書遺言の方式は、民法969条に定められています。要旨は以下のとおりです。
- 証人2人以上の立会いがあること(1号)。
- 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること(2号)。
- 公証人が口授を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ又は閲覧させること(3号)。
- 遺言者・証人が正確性を承認のうえ署名押印すること(4号)。
- 公証人が方式に従って作成した旨を付記し署名押印すること(5号)。
このように、公正証書遺言は証人の立会いや公証人の面前手続を要件とする厳格な方式です。
改正後もこれらの方式の根幹部分(1号・2号)は維持されます。
法改正内容(公正証書遺言の作成等)
嘱託(申請)方法
現行では公証役場に出頭して印鑑証明書等を提出する必要がありましたが、改正後はインターネットを利用して電子署名を付して申請することが可能になります。
公証人法28条
嘱託人は、公正証書の作成を嘱託する場合には、公証人に対し、署名用電子証明書等を提供する方法により、嘱託人が本人であることを明らかにしなければならない。
※説明の便宜のため改正部分に絞り、一部要約して記載しています。正確な文言は条文をご確認ください。
ウェブ会議の活用
従来の「公証人の面前」は、公証役場に出頭して行うのが原則でした。改正後は、ウェブ会議システムを用いた遠隔手続が可能となり、自宅等から遺言の口授や読み聞かせ手続を行うことができます。
公証人法31条
公証人は、嘱託人からの申出があり、かつ、当該申出を相当と認めるときは、公証人並びに嘱託人及び通訳人又は証人が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、通訳人に通訳をさせ、又は証人を公正証書の作成に立ち会わせることができる。
公証人法37条2項
公証人は、嘱託人からの申出があり、かつ、当該申出を相当と認めるときは、公証人及び列席者(嘱託人や証人)が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、聴取した陳述等の記録を行うことができる。
公証人法40条3項
公証人は、嘱託人からの申出があり、かつ、当該申出を相当と認めるときは、公証人及び列席者(嘱託人や証人)が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、遺言の正確性を承認し、又はこれをさせることができる。
※説明の便宜のため改正部分に絞り、一部要約して記載しています。正確な文言は条文をご確認ください。
原本の電磁的記録化・電子署名の導入
従来は紙媒体で保存されていた公正証書の原本が、原則として電磁的記録(電子データ)として作成・保存されるようになります。
遺言者・証人・公証人による署名押印は、電子署名によって行うことが認められます。
これに対応して、正本や謄抄本の交付も電子データとして選択可能となります(電磁的方法により作成したものを書面で交付可)。
公証人法第36条
公証人は、電磁的記録をもって公正証書を作成することにつき困難な事情がある場合を除き、嘱託があった場合は電磁的記録により公正証書を作成するものとする。
公証人法43条
嘱託人、その承継人又は利害関係を有する第三者は、公証人に対し、当該公証人の保存する公正証書又はその附属書類について、次に掲げる請求をすることができる。
一 (略)
二 公正証書又は公正証書の附属書類(電磁的記録をもって作成されたものに限る。)に記録されている事項の全部又は一部を出力した書面の交付の請求
三 公正証書又は公正証書の附属書類(電磁的記録をもって作成されたものに限る。)に記録されている事項の全部又は一部を記録した電磁的記録の提供の請求
公証人法40条5項
列席者(嘱託人や証人)は、公正証書について、電子署名を講じなければならない。
※説明の便宜のため改正部分に絞り、一部要約して記載しています。正確な文言は条文をご確認ください。
自筆証書遺言の電子化について
今回の改正はあくまで公正証書遺言のデジタル化です。
一方、自筆証書遺言については、電子化の検討が進んでいますが、まだ立法化・施行には至っていません。
記事執筆時点(R7.9.7)では、制度化されていない点に注意が必要です。
まとめ
- 公正証書遺言は、オンラインでの作成が可能となります。
- 民法969条に定める方式の根本は維持されつつ、ウェブ会議・電子署名・電子データによる保存が導入されます。
- 改正の施行により、相続実務においても利便性と柔軟性が大きく向上する一方、詳細は今後の政省令整備を待つ必要があります。
参考文献
法務省民事局『民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律について』
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00336.html
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